経営者が、なぜ毎日工場に入るのか

 

 工場長の武藤北斗です。私は午前中は必ず工場で作業します。来客や取材を午後にして頂くのはこのためです。

 会社を運営する役割であっても工場に入り続けるのは「品質」と「働き方」の2つの観点があり、今回はそのことを説明します。

品質の観点

 こちらはいたってシンプルで「自分の五感を使って、常にチェックしたい」からです。社員しかやらない作業だけでなく、パート従業員がメインで行う「むき作業」や「計量作業」なども一緒に作業しチェックします。

 私は工場長であると同時に社内唯一の営業です。受注や経理などはパート従業員もやりますが、お客様からの細かな質問には私がお答えします。

 商品の特性や料理にあったエビなどの質問はもちろん、前回納品した商品の鮮度やサイズがどうであったかなど、現場にいないと返答できない声が届くことも多いです。その声にたいして、訳もわからず謝るだけとか、現場に伝えますとか、チェックを厳重にしますなどの適当な回答をしたくないのです。

 原料がどんな状態であったか、例えば「この時期の原料はこっちのサイズに偏りやすいけども、範囲内であるから了承してほしい」とか、「それが混じるということは、〇〇の手順を直して対応します」とか、「サイズの範囲をこのように変更してはどうでしょう」とか、事実にそって正直にお客様と話しがしたいのです。

 それが数量がよみにくい、船凍品の天然エビを仕入れる私たちが、嘘をつかずに見栄をはらずに、正直に商売をする術でもありますし、小さな会社ならではの丁寧で細やかな対応をいかした体制と思います。

 そして、私は現場で責任を任されている従業員がお客様に説明することは、食べものを扱う会社にとって、とても重要な気がしています。

 自分達は食べものを扱っているのだ、これを食べる人がいるのだ、もっと言うならあの人が食べる、あの店で調理してもらうということを意識することが大切ですし、経済だけでなく、利益だけでなく、ただのものとしてではなく、生きていくための食べものとしてエビをみる必要があるのです。

 私はよく大きくすることに関心がないと言います。それはこの「現場の責任者がお客様に説明する」というシンプルなことが、大きくなる過程で失われてしまうことを恐れているのかもしれません。

働き方の観点

 私たちの働き方の改革というのは、私が一方的に決めるのではなく、従業員の声をまとめ、私がルールとして形にしています。もちろん形にするのは難しいですが、まずは声がないと何も始まらないのです。

 「嫌いな作業をやってはいけない」は私が大嫌いな掃除を「いや、私は好きですよ、家の掃除も好きだし」と何気なく言ってくれた一言がきっかけだったりします。あくまでも従業員の声の積み重ねが改革に繋がっていくのです。

 そのうえで毎日工場に入る理由が何なのかを考えます。

 一緒に作業する一体感。親近感がわき、話しやすくなる。技術力をあげ威厳を高める。もちろん全部違います。

従業員の意見を真に理解するため」です。

 経営者が従業員の話を聞くこと自体は簡単です。よんで前に座ってもらえばいいだけですから。でも当然ですが、腹をわった話でなければ意味がありません。

 面談で従業員が日常的に行っている作業を説明しようとした時、私が「まって、その作業はいつやるの?」とか「どの商品を作る作業?」とか話の腰をおってしまえば、話す意欲は減りますし、こんな基本も分からない人に話しても意味ないと思われるでしょう。

 ですから、かなり簡略的な説明だったとしても意味を理解できるくらい、現場目線の考えや動きをそなえる必要があるのです。ここでよく勘違いされるのですが、私がうまくなる必要があるわけではなく、内容や流れを体にしみこませることが重要です。

 工場長だからといって、何でも1番である必要はありません。ルールを統一したり、働きやすい流れを作るのが私の役目です。サッカーの監督が選手より技術がないのと同じです。

 そして、ここからが重要ですが、従業員がこの人は理解していると安心して話す中で、更にこの会話の核心の部分を考え察することで、はじめて腹を割った話ができると考えます。

 そのためには、作業内容や流れに加えて、工場内での一人一人の動きや性格や職場全体の空気感を感じておく必要があります。車に乗ると性格が変わる人いませんか?それと同じで、場所や立場によって人格が変わるのが人間です。あくまでも現場での一人一人を感じ、全体を感じることが重要です。

 職場での問題というのは、たいていが人間関係を含んでいます。面談やミーティングや飲み会や休憩時間では、工場内での人間模様をとらえることはできません。そこを勘違いすると親睦を深めるはずの飲み会が争いの元になったり、ルール作りの判断を誤ることに繋がっていきます。

 従業員の意見を真に理解するには、工場の作業を自分にしみこませ、言葉の意味を理解する。そして職場内の雰囲気や人間模様を感じたうえで、言葉の意味を理解する。そのために私は工場に入るのです。

 今回も細かな話になりましたが、もちろん僕が完璧にできているわけではありません。全く想像していなかった人間模様になっていることも多々あります。そもそも男の僕が女の人の気持ちを理解する事なんてできないのかもしれません。それでも、理解しようとする努力だけは怠ってはいけないと思うのです。

パプアニューギニア海産 武藤北斗

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