一生懸命のはかり方

 エビ工場の作業は殻をむく、背ワタを抜く、包丁で切る、計量する、パン粉をつける等、いろいろあります。

当然ながらどの作業にも個人差がでてきます。何でもいいのですが、分かりやすいので作業スピードに注目します。

一般的には早い人が優秀で、パート従業員ならば時給などが上がっていくでしょう。しかし私の中では「遅いことが悪い」という考えがないため、評価は変わりません。

私の評価基準は「一生懸命やっているか」だけです。

一生懸命やって遅い人に「遅いぞ!!」「もっと早く!!」ということに何の意味もありません。

もちろん一時的に早くなることはあります。

しかしそれは本当の意味でスピードが上がっているのではなく、重圧により何かを失った代償でしかありません。品質や意欲を失ってしまったかもしれませんし、もしかすると心に大きな傷をおっていないか心配です。

同じような理由で、作業が早い人を褒めることもなくなりました。早いのを褒めるというのは、「遅いのは悪い」と言ってるように感じるからです。

「それでは早い人がやる気をなくしませんか」と聞かれます。

しかし、思い出してほしいのです。人間は本当に多様だということを。全てを完璧にこなす人などいません。この作業は早いけど、あの作業は遅い。作業以外でも「職場改善の案をだす人」「いるだけで和む人」のようなことにだって、得意不得意はありますし、作業の効率や品質などにも影響しています。

何か一つだけに特化して評価する方が私には危険に思えます。作業は早くて時給は高いけれど、いるだけで職場の雰囲気が悪く、効率を下げてしまう人、見たことありませんか?(まあ、これも会社が悪いのですが)

一生懸命の判断

ではその唯一の判断基準である「一生懸命やっているか」をどう判断するのか。

これまでは「会社が従業員のことを真剣に考えて対応していれば、おのずと一生懸命やってくれます」程度の、自分でももの足りなさを感じるくらいのことしか言えませんでした。

しかし、今週やっとわかりました(先に動き始め、理論や言葉が後からついてくることがよくあるので、あまり気にしないでください)。パプアニューギニア海産のことを理解して下さっている方と話している際に「一生懸命」の話になり、私の口からこんな言葉が出てきたのです。

「もし一生懸命やらない従業員がいたら、それは会社の仕組みが悪いだけですね。私たち経営者やリーダーはジャッジするのではなく、みんなが一生懸命働けるような仕組みを考えることが大切なんだと思います」

ようするに判断する必要がないということです。

経営者である私は「働きやすい職場」や「一生懸命働ける仕組み」を機能させることが大切であり、ジャッジするのではなく、自分自身が一生懸命になるだけなんだと気づきました。前回の「問題ある従業員とは」と同じですね。

しかし、そんなことを公言したら「一生懸命やらないのは工場長の仕組みのせい」と言い出す従業員がでないかと心配する人がいます。でも、もう従業員の本心にビクビクするのはやめましょう。

もし実際に出てきたら、とことん顔をあわせて話をするだけです。怒るのではなく、話し合うのです。相談でもいいでしょう。「あなたが一生懸命仕事をしたくなるにはどんな仕組みがいいか、一緒に考えましょう」と。

出てくる感情が良い悪いではなく、あくまでも仕組みをともに考え作るだけです。その過程を経験することがとても大事です。

経営者やリーダーはジャッジすることへの労力を限りなく減らすことで、人間関係が良好になり、職場全体の争いが減るはずです。

私たちの会社ではパート従業員の時給は統一です。1日目の人も、7年目の人も、ほぼ毎日来る人も、月に数日しか来ない人も。今ですと時給1000円です。

パート従業員は誰もが好きな日に働き、好きな日に休み、好きな時間に出勤し、好きな時間に帰る。嫌いな仕事をやるのは禁止で、争わずに一生懸命仕事をする。

出勤した時に一生懸命やっているかどうかが基準。であれば、平等に時給1000円というのは私の中では理にかなっています。

この働き方、考え方が全ての人に受け入れられるとは思っていません。いろんな考え方、働き方の会社が増え、選択肢が増えていくことが大切と思っています。共感できる人はいつか私たちと一緒に働きましょう。

私自身は、ただただ淡々と平凡な日々を過ごしたい。人がどうではなく、自分がどうなのか、そこを見つめはじめた時から、気持ちよく生きている気がします。

パプアニューギニア海産・工場長 武藤北斗

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