「天然エビに関する正直な実際の話」は弊社社長が1999年に書いたものです。
(現状はぼとんど変わっておりませんが、一部削除・追記しております)
天然エビに興味がある方も、ない方も一度読んでください。
天然海老からいろいろな世界が見えてくるはずです。
【天然エビに関する正直な実際の話】
話をする人:武藤 優(株式会社パプアニューギニア海産 社長)
まず、本人の経歴をざっと説明します。1949年11月18日この世に生を受ける。高校卒業までは、とりあえず普通の子だった。そこそこ勉強にいそしみながら、ラグビーに熱中していた体育会系だった。ただ、周りの友人達に比較すると、他人の決めた価値観にはあまり影響されないような節が見受けられ、独自の価値観による判断基準によって行動する傾向が強かった。長崎大学水産学部 漁業学科 特設専攻科というところを卒業したため、本来であれば(何が本来なのかは自分自身も分かってないかも?)いわゆる大手水産会社の北方又は南方トロール漁船の航海士にでもなって、今ごろは、この水産業総倒れの現実の波にどっぷり飲み込まれ、陸に上がった河童もどきになっていたはずである。ところが、ふとした事件により、近い将来きっと間違いなく英語の能力が必要不可欠になる時が来るとのひらめき(思いつき?)から、学部を卒業し、特設専攻科に入学するや否や1年間休学し(留年ではなく自分の意思による休学)宝幸水産の大津丸船団(母船式鮭鱒漁業)に潜り込んで、約半年の間、極寒ベーリング海でひと稼ぎした後、親兄弟の大反対にもかかわらず、夫人(当時は、まだ一般的ではなかった学生結婚であった)を誘って丸め込み、ニューヨークのマンハッタン(詳しくはイースト66丁目のチェコ人居住区近く)での脱日本語下宿生活という語学武者修行に出かけてしまった。極貧状態ではあったものの、多感なこの時期に異国の文化に直に触れることができ、他の人の評価はさておき、当の本人たちにとっては真に有意義な時間を手に入れたようである。しかし、このために卒業が一年遅れてしまった事も事実であり、運の悪いことに、第二次オイルショックとやらで水産会社の航海士の職は募集ゼロの時期であった。まあ、これも流れと受け止め、築地魚市場(大都魚類株式会社)に職を得たところ、冷凍エビ課に配属され、これが縁で一生エビと関わるようになったようである。
冷凍エビ課に配属された武藤は、市場の仕事がら毎朝3時起床の生活が続くことになった。朝の早い仕事が辛くないといえば大嘘になるが、それよりも武藤を悩ませたことは、市場が元来抱えている摂取の構造そのものだった。どういう訳か、生産する人たちの側に立った生き方を強く思考するようになり、それが高じて、再び親兄弟の猛烈な反対を一身に受けながらも会社を退職してしまった。おまけに、2人の幼い子供たちを夫人に預け、外務省管轄の海外青年協力隊なるものに参加してしまい、ホンジュラスという国の途上国向け沿岸漁業開発プロジェクトに2年間従事し、夢の実現に向けて本人なりの努力をしていたようである。その後国際協力事業団のパプアニューギニア駐在を経て、パプアニューギニア国ガルフ州政府水産公社の要請を受け、彼らの彼ら自身による日本における販売窓口としての日本法人設立に参画し、武藤が永年模索し続けてきた生産者サイドに立った真の流通システムの開発に着手することとなった。ここでめでたく夫人と子供たち(北斗・くるす)との生活が戻ってきたことは、本人にとっても誠に喜ばしいことであったに違いない。1985年8月のことであった。思い起こせば日航機の大きな事故のあった直後の船出であった。
この当時は、現実のように養殖エビというものが大手を振ってまかり通る時代ではなく、天然エビにとっては、厳しいながらも不安の少ない時代だったようである。日本の商社・水産会社等の大資本、はたまた、政府の紐付き援助とは一切の関係を持たないパプアニューギニアの民族資本のみによる生産母体ということで、国内の中央卸売市場の人たちの強力な支援・協力も得る事ができたおかげで、州政府水産公社は順調に業績を伸ばし、四年の間に自力で150トン型新造トロール船4隻を建造する事が可能となった。マーケットの協力が生産者にとっていかに大切で必要なことかが証明された訳である。
ただ、この事は生産者もなかなか理解してくれないことなんですよ。更に高値で買う人が現れると、ついつい安定したマーケットを捨ててしまうんですよ。この辺の事情も含めて続きは次回のお楽しみ!
突然ですが、日本の消費者の人たちのほとんどは、エビの頭に関して良い印象を持っていないようですが、何故なんでしょうか?一般に市販されているエビ達には何故頭がついていないのでしょうか?この応えも次回のお楽しみに!
★天然エビに関する正直な実際の話 その2
生産者とマーケット(流通業者)との間には、決して埋めることが出来ない大きな溝があります。生産者は少しでも高い値段で買ってくれる人が良い人あり、流通業者は良い品物を少しでも安く出荷してくれる人が良い人である、と考えるのが自然です。これは、物の流れを単純に価格のみで考えるとこうなりますが、途上国のしかも第一次産品となると、事はそう簡単ではありません。というのは、途上国の生産には、資源はあっても、それを製品化する技術も資本の蓄えも無いのが普通です。従って、必要があれば買い手の側が支援し、生産者は技術を習得して行かなければなりません。
私たちは1985年8月にパプアニューギニア国ガルフ州政府水産公社(通称ガルフパプア水産)の要請により、日本における販売窓口としての会社を東京に設立しました。この会社(株式会社イサテアジャパン)の設立に際しては、日本の商社・水産会社からの資金援助を一切受けていません。また、私たちも一切の資本参加を行わず、彼らが自立するために必要な技術指導・経営指導を行うという趣旨で事業の運営に参加し、商品の売買に関しては、彼らの意思を100%尊重してやって参りました。
通常の場合は、こうした形態は採られず、日本サイドから金も人も全てが準備され、商品は全て日本に出荷するという、いわゆる現地合弁会社方式による開発輸入という形態で、現地には利益を落とさないように、生かさず殺さず搾り取る、を経営の基本方針とし、いよいよとるものが無くなるか、又は、採算が合わなくなれば“SORRY”の一言で撤退すればよい、という事が日本の社会正義では許されているように私は思います。
私は、この通常の価値観に違和感を覚え、真に途上国の産業の育成と発展を目指せる形態のシステム作りの基盤造りに取り組んだ訳です。とこからの資金援助も得られなかったし、又期待も出来なかったため、現地の人たちの努力はもちろんのこと、国内マーケットサイドの理解と協力が何よりも必要不可欠でした。幸いにも、私たちのこのような状況を理解し、東京・大阪・北九州の市場の人たちが、最大限のサポートを実施してくれたことが、この事業の成功の鍵であったと思います。
1987年に本格化した、養殖エビの大量搬入による冷凍エビ相場の急落・安値安定により、生産者の生産コストの確保が危うくなり、末端消費者の人たち向けの流通システムの開発や、大幅なコスト削減策を講じる等して、何とか危機を克服し、奇跡的にも現地の事業形態は、どうやら自立を果たすことができたようです。普通ならば、これで話は「めでたし、めでたし」といくはずなのでしょうが、現実は以外に厳しく、実はここからが私たちの正念場だったのです。しかも、愚かなことに、その事実に気付いたのは、何とこの「めでたし、めでたし」の後だったのです。この意外な現実とはどのような状況なのか皆さんも想像してみて下さい。
常識的に考えれば、これまで私たちも彼らを支えるために最大限の努力をし、血も流しながらマーケットを開発してきた訳ですから、これからは良きパートナーとして製品の入手に関しては「一切心配が無く、独占だぁ!」という事になると思います。ところが実際には、(私たちの協力の結果)彼らは技術的にも自立した訳だし、商品としても国際マーケットで十分に通用するものに仕上がっているため、彼らとしては自由に買い手を物色できる立場に成長したという訳です。仮に、私たちより高い値段を提示するスポットバイヤーが現れれば、それは、私たちにとっては厄介な話しな訳であります。途上国にありがちな品質・規格の不良等の発生の恐れが無いため、資金力の豊富な商社・水産会社は、製品ルートの略奪のために、極端な話利益なしでも、ノーリスクで高値の買い付け競争に参入することが可能になってしまったのです。生産者が納得できる良質のマーケットを提供する事で、真の競争力をつけていかなければ、資金力にものを言わせる大企業とはとても戦えません。私たちが目指していた現地の自立ということは、実はこういう一面を持っていたのです。しかしながら、私たちは負けません。消費者の皆さんに直結したネットワークにより、大企業には決して真似の出来ないやり方が私たちにはあると考えています。どうか私たちをもっともっと応援してください。本当にお願いします。
私たちは、ここ数年急に意識され始めた自然のままの食品である、とか薬品に侵されていない、という理由だけでパプアニューギニア産天然エビの取り扱いを始めたわけではありません。私たちは10数年以上も前から、一貫したコンセプトでこの海老事業をやっています。南北問題から出発した途上国の産業の開発と技術移転、及び青少年達の育成はもとより、幅広い文化の交流という大きな目標を持って事業活動を営んでいます。そしていわゆるボランティアではなく実業ですので、涙も出ますし血も流れます。生産する人達の都合など考えない、ヤクザな企業とも生き残りをかけて戦わなければなりません。やっとここまで育ってきましたが、安心している余裕など無く、実はこれからが一番大変な時代なのだと考えています。途上国の人たちが自立して事業を行うということは、私達が想像できないほど困難なことであり、マーケットの開発が同時進行し、且つその存在価値を生産者が正しく理解して共同作業を継続していかない限り、双方が共に生き延びる可能性は、無に等しいということを理解して頂きたいと思います。この便利さに魂を売り渡してしまった国の馬鹿げた価値観を基にして、途上国の現状を理解することは不可能であり、理解したと錯覚することはとても危険です。人間にとって、何が大切かということは、人それぞれの価値観によって決まってくると思います。地球環境の問題にしても、あふれる情報の中から自分に都合の良い解釈だけを選択してはいないでしょうか?
世の中は、自分に都合のよいことばっかりではりません。都合の悪いことがあるから、頑張る力が湧いてくるんだし、ニューギニアの仲間達も私もめげずに頑張りますので、皆さん応援宜しくお願いします。
この機会を利用させてもらって、先日のニューギニア北部の地震災害に対する義援金の御礼をさせて頂きます。総額200万円以上が集まりました。本当にありがとうございました。間違いなく現地パートナーを経由して被災された州政府へ送付致しました事をご報告します。
前回お出ししましたエビの頭の問題の答えは以下の通りです。又、別解をお持ちの方はコメント頂ければ幸いです。
1960年代エビの輸入が自由化され、大手水産業者はこぞってインド・インドネシアにおいてエビの買い付けを開始しました。当時は、現在私達が使用しているような急速冷凍設備を備えたトロール船は存在しておらず、現地の漁民が2~3日かかって小船で捕ってきたエビを集めて、陸上の冷凍工場で凍結し、それを輸出していました。この方式によると、エビは漁獲されて最短でも3~4日は氷水に漬けられ鮮度は著しく低下します。エビは鮮度が低下してくるとまず、頭の部分が黒く変色してきます。頭が黒く変色したエビは見た目も悪くなるため、販売する際に支障をきたすので、全部頭は除去することに決めました。そして、買う人(消費者)が疑問を持つ前に、業界は、頭の無いエビが当たり前であるかのごとき情報操作を実施しました。その後数年経って、船上凍結設備のある大型トロール船が誕生し、有頭製品の製造が可能になったにも拘わらず、すでに定着した世論を覆すことの必要性とメリットは大企業側には存在せず、未だに無頭製品が普通とされ、船上で除去された頭部は、捨てられ続けています。
しかし、私たちは、エビは頭こそがエビの味がするということを広く消費者の皆さんに知って頂きたくて、有頭ホワイトエビの商品化を進めました。私たちのエビをご存知の皆さんにはこのような製品の存在が、全然不思議ではないでしょうが、通常はこの種のエビは有頭の姿では存在していません。このようなものを作ったとしても、消費するマーケットが存在しないため作らないのです。日本全国探して頂ければ私たちの製品と同レベルのエビがどこにも存在しないことが分かって頂けると思います。
有頭エビでも、オーストラリア産タイガーやインドネシア産タイガー等は、デパート等でも解凍売りの状態で、年末などにはお目見えしています。ただ、こうした形で販売されているエビ達も、頭部・腹部・尾部の酸化作用による黒変を発生させないための薬品に漬けられてしまっており、既に天然エビとは言えない、強いて名付けるとすれば“もと天然エビ”となっていて、味も舌触りも安全性も私たちのエビとは比較になりません。
エビは、鮮度が低下すると黒変するという事実を今回説明しましたが、皆さんはこのように黒変したエビというものをスーパーマーケットなどで見たことがありますか?鮮度が低下するということは、言い換えれば時間が経つということであり、時間が経つということは、言い換えれば、空気に触れている時間が長いということであり、トレーパックに入っている商品等は、黒変して当然であり、黒変していないのは・・・当然のこと黒変防止剤のお世話になっているということを表しています。ぜひ、お近くのスーパーマーケットやデパートでチェックして見て下さい。
★天然エビに関する正直な実際の話 その3
皆さん!スーパーやデパート等でエビの黒変状態についてチェックして頂けたでしょうか?変な話ですが、黒変しているエビを見つける方が難しいかもしれません。何故かというと、加工されてトレーパック等に入れられて、ラップにくるまれている製品のほとんどが、酸化防止剤(黒変防止剤)のお世話になっており、黒変が発生しないように品質を改悪されてしまっているのが現状だからです。
エビの場合には、凍結しているか否か、或いは、加熱処理されているか否かには関係なく、空気に直接ふれる状態であれば、酸化が始まってしまう訳であり、その結果、黒変が発生しなければなりません。薬品の世話になっていない自然のままの状態であれば、酸化作用により、エビの頭部・しっぽ・腹部が徐々に黒く変色しなければなりません。もちろん私達のエビも放置しておけば、約1時間もすれば立派に黒変し始めます。
船凍品といわれる私たちのエビも、残念ながら、全てが皆同一の鮮度を保持しているというわけではありません。この点に関しては、実際の操業状況をお話しするときに詳しく説明させてもらいます。(皆さんもその理由を想像してみて下さい。)ただ、この黒変のスピードと鮮度低下のスピードの間には、明確な比例関係はなか、黒変が発生したからといって、即、食べられなくなったということではありません。むしろ、黒変が発生するという現象を鮮度変化の具合を察知する判定材料として利用し、黒変が発生してきた場合には刺身はやめて、加熱処理して早めに食べるというふうに考えて頂きたいと思います。
ところが、困った事に、スーパーやデパート等で販売されているエビ達の場合には、この変化が現れないように処置されてしまっているのです。その理由は、黒変したエビはいかにも鮮度が悪そうに見えるし、黒く変色したエビは売れ残ってしまうため、前述の黒変防止剤という薬品にどっぷりと漬けられて、加工が行われているからです。売る側からすれば、放ったらかしにしておいても黒変しないのだから、とても楽だし安心ですが、買う側にしてみれば、鮮度の状況が判らないだけでなく薬品に漬けられている訳ですから危険この上ない商品ということになります。臭いも最悪です。
これからの季節、お魚売り場では、有頭エビが解凍されて、氷水の中でチャプチャプして売られる光景があちらこちらで見られるようになりますが、これなどはどんどん黒変が進むのが当たり前で、薬品を使用しなければ、大体1時間くらいで黒くなり始めるのが自然です。黒変していないエビは、色が抜けたようにボヤーとしていますので、近寄ってよくみると判るはずです。皆さん 用心 用心 ですよ!!
ところで、養殖エビと天然エビの違いについて、皆さんはどの位ご存知ですか?
最近は、消費者の皆さんの安全な食べ物に対するアンテナが敏感に反応するようになってきたために、業界ではいろいろなキャッチフレーズを駆使して、養殖エビに対するイメージアップ作戦を展開しているようですが、しょせん養殖エビは養殖エビということを次回はお話したいと思います。
その後、いよいよ実際のトロール船では、どのようにエビ達が漁獲・選別・箱詰め・冷凍加工されていくのかを説明し、その美味しさと安全性の秘密を解き明かしていきたいと思います。
★天然エビに関する正直な実際の話 その4
天然エビと養殖エビの根本的な違いは、自然の生態系の中で自力で生きているのか、或いはそうではないかという点に尽きると思います。
養殖エビの場合は、利潤を得るために、エビという商品を製造しているという事です。ですから、この養殖エビの製造に関わっている人たちは、出来るだけ効率良く生産するための努力を続ける事が、事業の発展につながると考えているはずです。養殖池の造成が地球環境に悪影響があるとか無いとか、ということにも無頓着です。さて、養殖エビは、平均的には同一の池から年に二回収穫されます。いわゆる二毛作という奴です。決められた時期までに一定の大きさに育てて収穫するわけです。その際に、大きい奴や小さい奴が入り乱れていては手間がかかるだけでなく、儲けも減ります。従って、収穫時期に合わせて、大体同じ大きさに育てるノウハウが必要となります。
収穫時期に合わせて同じように成長させるためには、同じように食べさせ、同じように大きくなってもらわなければなりません。満員電車のようにゴチャゴチャに混雑した狭い池の中では、ストレスも溜まるし食欲もなくなります。それでは困るため、食欲を刺激するホルモンの入った食欲増進剤を与え、何が何でも食べさせます。計画的に大きくする為に成長促進剤も必要です。海老たちの生活の場である池の中は、食べ残した餌や彼ら自身の排泄物により、大変に劣悪な生活環境となっており、病気にもかかりやすくなっています。それでは困るため、抗生物質や抗菌剤を与えます。このような薬物を適切に?配合した合成飼料があれば、何の心配もありません。エビを養殖するより、これらの餌を生産した方が確実に儲かるともいわれています。
このようにして、立派に薬漬けになった養殖エビが出来上がります。最近では、何万ヘクタールというような広大な土地を使って、コンピューター管理された鮮度抜群の・・・・・・・というような奴が出現してきているようです。ただ、いずれにしましても、養殖エビというものは、大なり小なり前述の手順を踏んでいるはずですから、消費者の人たちに対して、いろいろな新語による説明や言い分けを駆使して安全性を強調しなければならないのが現実のようです。最近の養殖エビは安全です。ということは、昔の養殖エビは安全ではなかったということなのでしょうか?
皆さんの周りのデパートやスーパーでは、大抵の場合再凍結されたトレーパック商品が一般的だと思います。前回の話で説明したように、黒変防止剤がたっぷり使用されています。これも養殖エビだけに限らず、天然エビと書かれているエビ達も、同様の薬品に犯されてしまっており、もと天然エビという状態に変化してしまっています。とはいうものの、店で販売されている商品なのですから、政府が定めた基準値をオーバーしていないと思いますが、やはり出来るだけ薬品などに犯されていないものの方が身体には良いと思います。また、養殖エビ君たちは、巷に多数存在するブロイラー君たちとおなじように無理に大きくさせられている為、自然に育った健康なエビ君たちに比べて細胞膜も弱いし、細胞の数も少ないのです。その為細胞膜組成に悪影響を与える解凍や再凍結作業を行う事により、容易に味が逃げてしまったり、プリプリとした食感が失われてしまったりします。
その点私たちの天然エビは、自身を持ってお勧めできる商品です。どちらを選ぶかは皆さん次第です。
さて、いよいよ天然エビがどのようにして漁獲されるのかの説明に入ります。私たちの使用している漁船は、約150トンの鋼製エビトロール船(日本製の中古船)です。約15名が乗り組みます。一旦港をでると、通常45日間は帰ってきません。基地のポートモレスビーから漁場までは約一昼夜かかります。漁場に到着すると、直ちに漁が開始され、一日6網即ち6回操業します。ということは、約4時間おきに網が揚がってくるわけで、まともに寝る時間もありません。
船上急速凍結エビといっても、全てが同一の鮮度ではありません。この辺の問題を踏まえて、製品造りの対しての正直な話を次回致します。
★天然エビに関する正直な実際の話 その5
普通一般には、船上凍結品というと、いかにも鮮度が良いという印象を与えがちです。養殖エビで使われる、現地一回凍結やシングルフローズンといった類の言葉同様、実に耳障りの良い響きを持っているではありませんか。確かに最高鮮度の品質を保証できる製品がほとんどですが、選別のやり方次第によっては粗悪品となる恐れも十分にあります。
例えばです。私達のやっているレベルのエビトロールでは、一日に6網操業するのが普通のパターンですが、その際一回の曳網時間(網をひっぱっている時間)は大体2.5~3時間です。網を入れてからすぐにかかったエビは、とりあえず2時間以上も水温28℃の中で引きずりまわされて、もう身も心もヨレヨレ状態です。反対に不運にも、網揚げ直後につかまった奴はビンビンに生きている訳です。このような海の中(網の中)の状況は船の上からでは判断が出来ません。テストネットというおもちゃのような小さな網を、本ネットと同時に曳いていて、30分おきにその網を揚げてエビが入っているかどうかを調べています。このおもちゃの網に、ごそっとエビが入れば、即揚網ということになります。このテストネットをチェックする際に、網に一緒に入ってくる魚の種類やその魚の胃袋の中身を調べたりして、天候や潮の状況を考慮してエビのいそうな場所を探すのです。こうしたこまごまとした作業を経て、揚がってきた本網の中身には、エビやら小魚やら鮮度の良い物や悪いものなど種種雑多なものがいるわけです。このように種種雑多な漁獲物を、毎回毎回乗組員が手作業で選別します。エビの鮮度の良い悪いの決定は、それぞれの乗組員の経験に委ねられているのが実情です。陸の工場の中で、全て機械管理されて出来上がってくる商品とは、品質・規格の面でかなり判断基準が違うというのが現実です。一度出港すると、通常45日間は戻ってきませんので、品質・規格にムラの出ないように、常に注意を喚起していないとなりません。従いまして、お客様からのクレームが発生した場合には、私達も謙虚に事態を受け止めると共に、原因を追究し、再びクレームが発生しないように現場にフィードバックする事が、品質を維持する為にとても重要なことと考えています。お百姓さんが一生懸命お米や野菜を作るように、私達のエビの場合も、ニューギニアの人達がこのように頑張っていることも是非知って欲しいと思います。
漁獲量に関しては、平均的には以下のようになっています。普通は、一日平均200Kg~250Kg(製品換算)の漁獲量です。1日6回操業ですから、1日当たり40Kg程度という事になります。ということで、かなり貴重品であるということが、少しだけイメージできたと思います。
では、漁獲されたエビたちが製品になる様子を説明します。
まず、船の両側で曳いている網をそれぞれ甲板に取り込みます。ウィンチで網の袖部分を巻き上げ、網口のロープを解き、中の魚をデッキにぶちまけます。左右両方の網をぶちまけます。エビや魚だけでなく、あるときは海がめやマンタ(えい)やサメ、また時には、猛毒を持った海蛇なんかも混じっている時があります。そんな時にわーわー騒ぐのは、たまに乗船する私達素人だけのようです。彼らは、この危ない海蛇などは無造作に棒切れで引っ掛けて、海に「ポイッ」と捨て、サメは頭を小槌でコツンとして気絶させひれを切り取り、超美味の海がめは自分たちの食料にする為確保し、などなど黙々と自分たちの作業を開始します。この頃になると、網口を再び閉じられた本網が投網され、本船はエビを求めて作戦開始です。こうした間も、おもちゃのネットは30分毎に調べられ、エビを追い求める漁労部分の作業は続いています。
さて、船上の加工作業のほうに話を戻します。赤道直下みたいなもの(南緯9度くらい)ですからとにかく直射が強いんです。エビや魚の鮮度を落とさないために覆い(オーニング)をかけます。そして、エビと魚を20センチ四方位の木切れを使って選り分け、エビの方はプラスチックのバスケットに種類別且つ大雑把な大きさに分けて集めます。この作業(これが結構つらい!約20分間いわゆるウンチングスタイルで作業するわけです)が終わると第一ラウンド終了って感じです。バスケットにい集められたエビは海水で洗います。混獲された小魚類は、現状では残念ながら海に戻して魚の餌になります。有頭のブラックタイガーは作業台に運ばれ大きさごとに選別・計量され、箱詰め注水後、急速冷凍機へ入れられます。一方無頭のホワイト作成班は、海水で洗われたエビの頭落とし作業にかかります。この時点で、一級品と次品との完全選別が行われています。手選別されたエビ達は、更にもう一度海水で洗浄されます。そして、最後の工程の自動選別機にかけられ、計量・箱詰め・注水と作業は進み、急速凍結機へと送られていきます。漁獲量によって差はありますが、大体この一連の作業は40分程度が目安です。
こうして作られた製品が、はるばる旅をして皆さんのご家庭まで届くことを考えると、何か感動すら覚えます。現地の人たちにとっても、自分達の製品が実際に商店の店先に並べられている消費の実態を見たりした時の感動は言葉では言い表せないものがあるようです。
★天然エビに関する正直な実際の話 その6
今回はエビトロール船乗組員の構成と彼らの生活パターンをお話します。
まず、最高責任者の船長がいます。150トン程度の漁船では漁労(魚を獲ること)に対する最高責任者である漁労長と船長は兼務するケースが殆どです。次に、船を動かすことに関する最高責任者の機関長がいます。機関長は冷凍機やウィンチ等漁労機器に関しても責任があります。漁船の場合は船が動いて当たり前ですので、エンジントラブルや冷凍機トラブルがあると機関長は夜も眠れません。漁労部には船長の下に現地人の幹部候補生が1名ないし2名がいて、漁労技術並びに操船技術を学んでいます。私達の場合には、技術移転が真にスムーズに行われ、現地の青年がその大役を果たせるまでになっています。その結果、実際に何が起こったかというと、今まで頑張って現地の若者達を指導してきた日本人船長・機関長の職場がなくなりました。最後まで現地の青年たちの指導・育成に勤めた船長・機関長は、今までの経験を生かして、現在は石巻の加工工場で私達の商品作りに従事しています。「その2」でもお話したように、途上国の産業を育成しながら技術移転を実施し、自立を目指すということは、理屈ではとても簡単な事のようですが、現実にその自立が果たされた結果、協力・支援してきた側に様々な不合理が生じてくるわけです。話を元に戻します。船長・機関長・幹部候補生以外は約10名の一般船員が乗組んでいます。海老がたくさん獲れる時期にはもう1~2名追加されます。
燃料・水・漁倉等の大きさにより多少の違いはありますが、私達のような150トン程度のエビトロール船の場合は一旦出漁すると45日間帰港しません。エビがたくさんとれて漁倉がいっぱいになった場合はその時点で「そうたん」(操業短縮のこと)です。めったにない事ですが、このようなときの船長は、大漁旗を掲げて得意満面です。帰港すると直ぐに漁獲物を陸揚げして冷凍倉庫へ保管します。翌日は網の手入れやエンジン・冷凍機の調整を行い、三日目及び四日目の二日間が休みで、五日目には出港準備が始まり、午後には出港していきます。そして再び45日間の操業です。定期ドッグ検査のための修理期間等を含めると、約7航海で1年が終了です。
日々の作業は以下のように進められています。最初の網が揚がるのが大体午前4時頃です。眠い目をこすりながら作業が始まります。エビと魚を選別して、(このあたりで網は再び海中へ)頭を落として、洗って、大きさを揃えて、箱詰めして、冷凍器へ入れられます。うまくいけば、午前5時半頃には片づけを終えてベッドへもぐりこむことができます。午前8時頃には2回目の揚網作業開始です。このときは朝飯を食べるため、眠らないでぶらぶらしているのが普通です。お昼の12時頃、午後4時頃、午後8時頃、真夜中の12時頃、にはそれぞれ同様の作業が繰り返し行われます。1航海あたり約270回です。睡眠時間も途切れ途切れだし、作業も楽ではないので日本で言えば、さしずめ3Kどころではなく5K6Kの職場と言えそうです。こうした状況ですので、最初の10日間くらいは元気ですが、だんだんと疲れが溜まってきます。品質に影響が出ないようにするため、船長の責任は重大です。
★天然エビに関する正直な実際の話 その7
船上凍結品に関して説明します。一般的には、漁獲後直ちに、船上にて急速凍結された製品をさします。主なところでは、アフリカのモザンビーク・マダガスカル、インドネシアのイリアン海域、オーストラリアのカーペンタリア湾を始めとする広範囲にわたる同国沿岸水域、そして、我がパプアニューギニア沿岸水域等が主な産地としてあげられます。
オーストラリア以外の産地では、漁船の大きさや漁獲の方法・製造過程に関しては、大体同じ方法が採用されています。という事は、漁獲量がやたら多いところでは、当然その処理に時間が掛かることになり、船上での処理に際してエビに黒変が発生しないように何らかの方法が取られなければなりません。一旦薬品に漬けたり、製品化する際に使用する注入水に薬品を溶かし込んだりという話を耳にしますが、実際のところは他社のことは分りません。少なくとも、私達の場合には薬品は一切の使用を禁止しています。私達の操業している海域は、幸か不幸か漁獲高が平均で250K/1日程度ですので、一網当たりに換算すると大体40K程度となり、薬品を使用する必要がありません。私達がお届けしているエビは、年間の漁獲量はそれほど多くありませんが、胸を張ってお客様にお勧めできる、薬品を使用していない数少ない天然エビであります。
★天然エビに関する正直な実際の話 その8
私たちはこれまでパプアニューギニアの生産者を育てる事を目的に頑張ってきました。早いもので、かれこれ14年が経過しました(1999年当時)。彼らもこの間十分頑張ってくれたと思いますし、よく自立するまでに育ってくれたと感謝しています。彼らをビジネスのパートナーとして尊重していくという意味からも、これからは、生産者を支えるという(ある意味で)おごったスタンスではなく、彼らにとって現実的に考えても最良といえるマーケットを創造してゆくという形でのパートナーシップを大切に考えていこうと思います。
この正常な関係を継続して行くためには、是非消費者の皆様の理解と協力が必要です。私たちの仕事を末永く応援して頂くことを願いながら、天然エビに関する正直な実際の話をひとまず終了させていただきます。
【 ひとまず おわり 】
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5 Responses to 小冊子「天然エビに関する正直な実際の話」